テールロープの材質比較

さまざまな材質のテールロープ

ヴァイオリンのテールピースとエンドピンをつなぐ「テールロープ」は様々な製品が発売され、材質に応じて音質や弾き心地が変化するパーツです。

最もオーソドックスなテールナイロンをはじめ、高強度繊維を用いたテールコード、金属ワイヤーのテールワイヤー、元来のガット素材などがあり楽器の特性に合わせて選択することができるようになっています。

今回のコラムでは、実際に同一楽器に取り付けて試した経験から、使用感などを書かせていただきたいと思います。

テールナイロン -最もオーソドックスな素材-

最も一般的かつ頻繁に用いられているのは、ナイロン素材の「テールナイロン」と呼ばれるものです。丈夫な太いナイロンで、直径は2mm程度。表面は黒くコーティングされていますが、芯材は透明です。両端に真鍮製のネジがつけられており、長さの調整が容易な点が特徴です。ウィットナー(独)の製品が最も信頼できると思います。ナイロン弦が普及し出したころから、テールガットより取付が容易なため使われ始めたと聞いたことがあります。

テールコード -高強度で楽器保全の面からも有用-

近年ではこれに代わる材質として、高強度の繊維ケブラーを用いた「テールコード」が使われることが増えてきました。主要なメーカーとしては、ボガーロ&クレメンテ(伊)やボア・ダルモニ(仏)があります。

ヴァイオリンテールロープ

ボア・ダルモニのコード(左)とボガーロ&クレメンテのコード(右)

どちらも実際に取り付けて使用しましたが、ボガーロ&クレメンテのコードはナイロン素材のものと似た音質で、演奏時の弓で擦った抵抗感、音程の取りやすさなどいずれもテールナイロンにかなり近いと感じました。ナイロン素材のものは長期使用で切れる可能性があるなど、耐久性における心配も持ち合わせているため、楽器の保全の目的から交換する際の、第一選択肢になり得ると感じました。

対してボア・ダルモニのコードは、抜けの良いカラッとした音質と思います。弾いたときの抵抗感はナイロンに比べるとややシャープで、楽器との相性によってはコントロールが難しく感じられる場合があるかもしれません。しかし楽器の鳴り(音量感)は、前述のボガーロ&クレメンテのコードやテールナイロンよりも少し大きいように感じます。板厚のしっかりとした楽器で、音の抜けが良い楽器とは最も相性が合うかもしれません。

なお、取り付けはフィッシャーマンズノット(漁師結び)と呼ばれる結び方で行います。弦を張ることによるテンションで伸びが見られますので、短めに調節しておいてから弦を張ることで、想定の長さに整えることができます。

テールワイヤー -音振の伝達が速い-

テールコードの他にも、金属製のワイヤーを用いた「テールワイヤー」と呼ばれる製品もあります。チタニウム素材のワイヤーがStradPetというメーカーから発売されているのを知り、取り寄せて着けてみました(2022.8/9追記)。

留め具の部分が太いためテールピースの穴の加工が必要で、2.4mm径まで広げる必要があります。テールナイロンがおよそ2.2mm径で通りますので、スッと通るようでしたら加工の必要はないかもしれません。長さ調整はネジで行えるため、1回の調整でちょうど弦長の1/6にすることができました。取り付け翌日になっても、全く伸びがみられませんでした。

音色は明るく輝かしい感じで抜けもよく、引き締まった音です。少し広がる感じで鳴る楽器と最も相性が合うかもしれません。バランス的には、高音(特にE線)の音量が増したように感じました。チタニウム製のほかには、ステンレスやタングステンなどのワイヤーもあるそうですので、機会があればまた試してみたいと思います。

テールガット -ヴァイオリン元来の音色-

バロック期など元来からヴァイオリン属の弦楽器に取り付けられていた「テールガット」も、古楽器奏者を中心に現在でも使用されています。これは、羊の腸を寄り合わせ捻じったもので、端は火で炙って止めることが多いそうです。その点、長さ調節は最も難しいものとなります。

楽器店にてテールナイロンからテールガットに交換して試させて頂いたことがありますが、その変化はナイロン弦からガット弦に交換したものと近い印象を受けました。私にとっては、テールロープが音質にここまで影響を与えるのかと感じた瞬間でもありました。ガット弦を好まれる方であれば、テールガットへの交換は望ましい方向の調整になるかもしれません。

なお、テールロープ交換には、弦・駒・テールピースとも取り外す必要があり、また長さ調節には共鳴の関係でテールピースから駒の弦の長さを、弦長(上ナットから駒まで)に対して1/6とする必要があります。魂柱の位置が変わることや、表板駒付近のニスを傷める可能性もありますので、弦楽器職人への依頼を推奨いたします。
今回のコラムでは、様々な材質が存在するテールロープについて取り上げました。ヴァイオリンは各部が微妙に影響し合って音質が決まるため、どの部品を交換しても音が変わる非常に繊細な楽器と思います。
音調整の参考になりましたら幸いです。

*情報は適宜、追加掲載していく予定です(最終更新 2022年8月9日)。

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ヴァイオリンのテールピースとエンドピンをつなぐ「テールロープ」は様々な製品が発売され、材質に応じて音質や弾き心地が変化するパーツです。

最もオーソドックスなテールナイロンをはじめ、高強度繊維を用いたテールコード、金属ワイヤーのテールワイヤー、元来のガット素材などがあり楽器の特性に合わせて選択することができるようになっています。

今回のコラムでは、実際に同一楽器に取り付けて試した経験から、使用感などを書かせていただきたいと思います。

テールナイロン -最もオーソドックスな素材-

最も一般的かつ頻繁に用いられているのは、ナイロン素材の「テールナイロン」と呼ばれるものです。丈夫な太いナイロンで、直径は2mm程度。表面は黒くコーティングされていますが、芯材は透明です。両端に真鍮製のネジがつけられており、長さの調整が容易な点が特徴です。ウィットナー(独)の製品が最も信頼できると思います。ナイロン弦が普及し出したころから、テールガットより取付が容易なため使われ始めたと聞いたことがあります。

テールコード -高強度で楽器保全の面からも有用-

近年ではこれに代わる材質として、高強度の繊維ケブラーを用いた「テールコード」が使われることが増えてきました。主要なメーカーとしては、ボガーロ&クレメンテ(伊)やボア・ダルモニ(仏)があります。

ヴァイオリンテールロープ

ボア・ダルモニのコード(左)とボガーロ&クレメンテのコード(右)

どちらも実際に取り付けて使用しましたが、ボガーロ&クレメンテのコードはナイロン素材のものと似た音質で、演奏時の弓で擦った抵抗感、音程の取りやすさなどいずれもテールナイロンにかなり近いと感じました。ナイロン素材のものは長期使用で切れる可能性があるなど、耐久性における心配も持ち合わせているため、楽器の保全の目的から交換する際の、第一選択肢になり得ると感じました。

対してボア・ダルモニのコードは、抜けの良いカラッとした音質と思います。弾いたときの抵抗感はナイロンに比べるとややシャープで、楽器との相性によってはコントロールが難しく感じられる場合があるかもしれません。しかし楽器の鳴り(音量感)は、前述のボガーロ&クレメンテのコードやテールナイロンよりも少し大きいように感じます。板厚のしっかりとした楽器で、音の抜けが良い楽器とは最も相性が合うかもしれません。

なお、取り付けはフィッシャーマンズノット(漁師結び)と呼ばれる結び方で行います。弦を張ることによるテンションで伸びが見られますので、短めに調節しておいてから弦を張ることで、想定の長さに整えることができます。

テールワイヤー -音振の伝達が速い-

テールコードの他にも、金属製のワイヤーを用いた「テールワイヤー」と呼ばれる製品もあります。チタニウム素材のワイヤーがStradPetというメーカーから発売されているのを知り、取り寄せて着けてみました(2022.8/9追記)。

留め具の部分が太いためテールピースの穴の加工が必要で、2.4mm径まで広げる必要があります。テールナイロンがおよそ2.2mm径で通りますので、スッと通るようでしたら加工の必要はないかもしれません。長さ調整はネジで行えるため、1回の調整でちょうど弦長の1/6にすることができました。取り付け翌日になっても、全く伸びがみられませんでした。

音色は明るく輝かしい感じで抜けもよく、引き締まった音です。少し広がる感じで鳴る楽器と最も相性が合うかもしれません。バランス的には、高音(特にE線)の音量が増したように感じました。チタニウム製のほかには、ステンレスやタングステンなどのワイヤーもあるそうですので、機会があればまた試してみたいと思います。

テールガット -ヴァイオリン元来の音色-

バロック期など元来からヴァイオリン属の弦楽器に取り付けられていた「テールガット」も、古楽器奏者を中心に現在でも使用されています。これは、羊の腸を寄り合わせ捻じったもので、端は火で炙って止めることが多いそうです。その点、長さ調節は最も難しいものとなります。

楽器店にてテールナイロンからテールガットに交換して試させて頂いたことがありますが、その変化はナイロン弦からガット弦に交換したものと近い印象を受けました。私にとっては、テールロープが音質にここまで影響を与えるのかと感じた瞬間でもありました。ガット弦を好まれる方であれば、テールガットへの交換は望ましい方向の調整になるかもしれません。

なお、テールロープ交換には、弦・駒・テールピースとも取り外す必要があり、また長さ調節には共鳴の関係でテールピースから駒の弦の長さを、弦長(上ナットから駒まで)に対して1/6とする必要があります。魂柱の位置が変わることや、表板駒付近のニスを傷める可能性もありますので、弦楽器職人への依頼を推奨いたします。
今回のコラムでは、様々な材質が存在するテールロープについて取り上げました。ヴァイオリンは各部が微妙に影響し合って音質が決まるため、どの部品を交換しても音が変わる非常に繊細な楽器と思います。
音調整の参考になりましたら幸いです。

*情報は適宜、追加掲載していく予定です(最終更新 2022年8月9日)。

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2022年09月14日